片方が空家、もう片方が倉庫貸として使われていた2件1棟の古民家家屋です。改修後は地域密着型の小規模多機能型居宅介護事業所として生まれ変わる予定で、改修工事が始まります。後でわかった事なのですが、この建物は昭和5年の棟上ということで築77年ということが判明しました。(平成19年現在)見た目でも倉庫として使われていた方は痛みが激しく、当初から雨漏れの懸念をしておりましたが、施主様より現状はそのような報告は無いということで工事が始まりました。
解体前からいやな予感が?と思いつつ作業を進めていったところ、やはり予感が的中。いたるところで雨漏れが発覚しました。天井をめっくていやな予感が?ようやく理解できたのですが、雨漏れがしていなかったのではなく、雨水の浸入を防いでいただけのことでした。
倉庫としての機能を満たすため、商品等が濡れないようにする為だけに部屋内側に波板等による2重屋根を施してあったのです。それも相当以前から漏っていたと思われ、改善されずに放置され続けたしっぺ返しが後になって重大な致命傷となってしまいました。
概ね解体作業も終わりスケルトンになった状態です。まず最初に取り掛ったのが屋根の葺き替えと雨漏れによる構造躯体の補強工事でした。
筋交補強プレート取付状況 | |
真壁施工の壁面は筋交が取れないため 構造用合板張りで壁量を持たせました |
足元の根継も添木を施してより頑強に |
いよいよ補強工事に取り掛かるのですが、雨漏れによる躯体の損傷は見た目より深刻な状態まで進行しておりました。瓦を通過した雨水が野地板へ、野地板から垂木へ、垂木から母屋へ、母屋から小屋梁へと伝い、長い年月を掛けて大切な躯体を腐食し続けました。
場所によっては下のように、1階座敷の梁まで腐食を進めておりました。見た目では本当にわかりにくく、表面の塗装幕1枚で梁という形を形成しておりました。
右上の写真は2階小屋梁を切断した断面です。中にはシロアリがウヨウヨと生息しており、空洞化し、さらに腐食を悪化させていました。
まださらに、左二段目の写真は1階四ツ目建ちの最重要な柱なのですが、2階から伝った雨水が逆に足元からシロアリを呼びよせたようで、柱の原型をとどめない程劣悪な状態で周りの管柱に支えられた状態で建っていました。
通常1階の柱や、よほどの場合でも梁まででシロアリの被害は収まっているのですが、かなりの年月、人の目が届かず放置させたことと、内部にビニール系の屋根を施した為湿気がたまりシロアリにとっては最高の住環境になったのではないかと思われます。
《教訓!》雨漏れ、水漏れは速やかに修繕しましょう。早期発見ほど安価で修繕できます。
右二段目の写真は大工6人がかりで仕掛けた小屋梁です。掛かってしまえばなんてことも無いようですがその作業時はまさに命懸けの作業でした。永年巣食っていたシロアリもこれで万事休す。少しかわいそうでもありますが、建物を守る救助隊(建築屋)からしますとこれもやむを得ずということで防蟻剤をたっぷりと塗布しておきました。抜取の範囲や補強の工法など、大工と試行錯誤を何回も繰り返し検討しました。ようやく確固たる補強方法が確定したので早速工事に取り掛かる。作業は迅速、正確に進められ、どうにか元の形にまで復元できました。
補強工事も終わり、雨漏れの元凶であった大屋根の改修工事がようやく始まりました。野地板はすべてはがし、腐食した垂木や母屋も屋根勾配に合わせ調整しながら補修していきました。
在来工法ですと土の重量が重く、負荷が大ききなり耐震的に不利になるため、桟葺き工法で瓦屋根を葺き替えました。
外部に面する床、壁、天井にはすべて@25のスタイロフォームを充填。材料そのものは軽いものですが、上向き姿勢で足元が悪い中の作業ゆえ、けっこうな重労働です。
汗びっしょりになりましたがでもこれで外気からの熱損失は大幅に軽減できます。
離れの基礎も完了し、これで大工工事も本格始動。
これだけ頑強な基礎でも上屋は平屋建てなんですよ!
隣地との境界塀の基礎。約1間の間隔で控え壁を取り、木軸で焼杉のアヤメ張り板塀にする予定です。
離れといいましても昔のトイレ、風呂棟です。今と違って、昔は総て母屋から離して建てたものです。汲み取りの関係もあり、衛生的にもあえて離して建てられたと考えられます。
やれば出来るもので、離れとして置いておくには惜しいような建物に生まれ変わりました。改修後は職員さんの休憩室になります。もちろんトイレも完備しております。但し今回は水洗ですが…
写真左上、階段の足元側にある柱2本だけが構造的にどうしても撤去できず、残ってしまいました。しかし、その柱間に小さな棚板を渡した事により、違和感無く自然な飾り棚が誕生しました。
外部のサッシュや主な照明器具、水周り商品については新しい建材を使用しましたが、この空間に違和感を感じない商品を吟味しました。また逆に主だった建具や備品等は、アンティークショップや骨董家具屋に通いつめ商品を捜し求めました。
内部の主な仕上…
天井及び柱、梁はすべて既存現しの上ベニガラ塗り壁は中霧島壁左官塗り、ソフトヘヤーライン仕上。床は畳敷以外、無垢板張りの上蜜蝋ワックス仕上。
1階掘りコタツのついた座敷の客室です。出入の建具は筬格子戸(おさこうしど)と呼ばれるもの。内側には4ヶ所に別れた小さな障子が嵌め込んであり、外すと千本格子越に向う側が見え隠れし、また違った空間が演出できます。元、通り庭から火袋を望む改修後は事務所として生まれ変わりました。永年溜まったすすを払い、この場所は従来の土壁で仕上げました。
解体後の既存天井板です。77年(平成19年現在)という月日が経過してもびくともしていない骨組みです。 日本の木造建築は世界に誇れる技術を持っておりますのできちんと手入れさえしてやれば何十年でも存続可能です。
運良く雨の浸食から、唯一難を逃れた床板。時代を生き抜いた小傷はあるにせよ、栃の縮杢と床框は黒檀の正真正銘無垢物です。これだけのモノを今求めようとしたら数十万円の代物です。みなさんよ~く見ておいて下さい!
左の写真は1階多目的室に置かれた時代物の桐箪笥です。周りに合わせアク洗いを施し、金物も綺麗に磨き上げました。また天端に美術品を置かれる想定で、サイドより間接照明を埋め込みました。
右の写真は1階座敷の堀コタツに設置したカツラの1枚板です。自然の曲線美を堪能してもらおうとあえてミミを残しました。
※取り外し可能にはしてありますが、かなりの力自慢でないと持ち上りません。
道路側窓際に設けたキャスター付収納庫。イベントの際には移動し、ちょっとした仕切りにも使えます。天端は4mものの杉の1枚板。でも移動できなければならないので真ん中で切断してあります。
改修後の玄関内部。天井には琵琶湖特産の葦を張り、それを長岡特産の黒竹で押さえ込みました。手前に写っているのも時代物の照明器具。こういった品物はほとんどが一品物なので、お金では買えない味わいがありますね!碍子は既存であったものをきれいに洗って再利用しました。
ホール~廊下の床には無垢のカラマツ柾目張り上り框は桧の磨き丸太、式台には日本の桜の1枚板を設置。
式台横の造り付の下駄箱。扉はやっぱりアンティーク商品。こちらはH寸法のみカットして使用しました。
ホール側から廊下、階段を望む。階段踏板ももちろん無垢板。最下段まで壁を下ろさず視界をさえきらないよう煤竹を立ててみた。これが意外と好評で、想った以上の効果がありました。
左の写真はキッチン吹抜見上げ部分。既存火袋の明り窓(トップライト)を手直しして残したのですが床を張ってしまうとキッチンまで光が届きません。そこで考え出したのがスノコ状の床。こうすることで床としても利用でき、光源も確保できました。
2階廊下の手摺り。腰壁には赤杉の無垢板を入れ込み、壁という威圧感を取り除きました。また欄干端部には大工特製 烏帽子 がひときわ存在感を放っていました。
過日、盛大な開所セレモニーが開催され、100人近い関係者がご覧になられました。施主様や事業主様はもちろん、地元自治会の会長さんや市会議員さんも来られ一様に驚きを隠せない様でした。職員さんをはじめ関係者の方々すべてに、気に入ってもらったように思います。アンティークな商品を捜し求めたり、腐食しきった躯体の抜取り、補強には大変苦労しましたが、皆さんの喜んでおられる笑顔を見るとすべてよき思い出となって出て参ります。このように命を吹き返した建物を地元の皆さんに幅広く活用していただけて、また当方も光栄です。
さらにこのような眠っている財産を呼び覚まし、古民家再生というものを多くの方々に活用して頂きたいかぎりです。
長々とお読み頂きまして、ありがとうございました。
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